大規模修繕工事新聞2019年10月号(第118号)
25/58

2019115..9Point◆構造スリットの目的 「構造スリット」は、1995年の阪神・淡路大震災を教訓として、地震の揺れで建物が損傷するのを防ぐため、柱と壁などの間に隙間をつくり、地震の衝撃を逃す「あそび」を利用した耐震構造で、マンションなど鉄筋コンクリートの多くの建物で導入されている。 ところが東日本大震災以降、構造スリットが設計通りに施工されていなかったり、隙間に入れる緩衝材を押しつぶすようにコンクリートが流し込まれている施工ミスが、全国のマンションで相次いで見つかっていたことが判明。◆構造スリットの施工ミスで起こり得ること 構造スリットはコンクリートの中にあるので外からは見えない。構造スリットの施工ミスのマンションでは、地震の揺れを逃すことができないので、柱などが損傷するなど、建物の強度が低下し、大地震では場合によって倒壊などにつながる恐れもあるとする専門家の意見もある。場合、これとあわせて公平性確保措置をとる旨の決議も行っておく⑶実際の事案はさまざまであり、適切な金額を算出することは難しい。可能な限り基準を明確化し、ある程度管理組合(理事会)の裁量に幅を持たせることを決めておく、などの方法を検討しておくことが必要になります。 さらなる難問は、先行工事者の住戸へも立ち入り工事が必要な場合があり、その際にリフォームしたばかりの高価なフローリングやユニットバスを破壊しなければならないケースがあることです。 ここでは大きな考え方の枠組みを指摘しておきたいと思います。①工事が適法に決議されれば、組合員はこれに拘束されるから工事の拒否はできない②先行工事者の財産を破壊されるわけだから、管理組合はその損害に対し償金を支払う必要がある③償金は購入時の価格相当額ではなく、破壊された瞬間の時価にとどまる④管理組合は先行工事者との間で工事後に原状回復する費用について、応分の負担を求める交渉を行う、ということになりますが、最終的にはケース・バイ・ケースで対処するしかないでしょう。 地震によって被害が出ないと発覚しないケースが考えられ、「こうしたミスは多くのマンションで潜在化している可能性がある」と指摘する専門家もいる。◆ミスを認めて補修工事を実施 そのような中、管理組合が専門家に調査を依頼し、ミスを発見するケースも出てきている。大手不動産会社が販売した愛知県内のマンションでは今年1月、構造スリットの施工ミスによって柱の1部が欠損していたことが分かり、会社側がミスを認めて住民側に謝罪。その後、補修工事が行われた。◆管理組合は調査に向けた取り組みを 構造スリットの施工ミスは、多くのマンションで潜在化しているのではないかとの観測もある。 構造スリットが設計通りに施工されていない場合には建築基準法に抵触するが、外観からはわからないので、知らぬ存ぜぬを決め込む販売会社等もあるから、阪神・淡路大震災以降の新築マンションでは、管理組合が積極的に調査しないと施工ミスは発覚しない。 調査によって安心を獲得しようではないか。杞憂に終わるかもしれないが、それも安心である。 (NPO日住協論説委員会)①先行工事者との公平性を確保することが修繕積立金を適法に支出する条件となることが考えられる②具体的な公平性確保措置はケース・バイ・ケースで決めるほかない 管理組合が給排水管の更新工事を行う際、専有部分の配管についても一括して行う管理組合が増えています。しかし、すでに専有部分の改装工事を済ませている住戸があり、給排水管の更新工事の費用に相当する金額を返還することで公平性を確保している管理組合があります。 先行工事者と、管理組合の負担で工事を実施する組合員との不公平さを解消することなく、漫然と修繕積立金の支出を決定してしまった場合、当該総会の決議内容が不公平であること理由に、無効と判断されてしまうリスクがあります。 そのため、管理組合としては先行工事者がいることを前提として、⑴規約に公平性確保措置のための支出についても許される旨の規定をおく⑵前記の規約の規定に基づき、実際に修繕積立金を支出する旨を総会で決議する管理組合が金銭を支払うことは許されるか構造スリットの施工ミスで建物はどうなるか!NPO日本住宅管理組合協議会/集合住宅管理新聞『アメニティ』2019年9月5日付第444号「論談」より■ 弁護士によるトラブル相談シリーズ専有部分の設備の先行工事者に対し

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る