昭和33年の10円玉 立ち読み
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  「他のお客さんの迷惑になるだろうが!」 座椅子などは板が張り付けてあるだけの背もたれもないものだった。 りだった。 やがて、「早く座らんか!」という声が聞こえ、私は我に返った。低い声だった。 (あ、オヤジ!) そこには、数年前に死んだはずの父が座っていた。 再び、父の叱責がとんだ。 辺りを見渡すと、そこは野球場だった。 だが、今ハヤリのドーム球場などとは似ても似つかぬ殺風景な球場で、観客も皆、痩せこけて、それでいて、異様に目がぎらついた男たちばかその中に、父も見事にとけ込んでいる。 痩せていて決して血色が良いとは言えない風貌であり、さらに、肌寒さ          05

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