大規模修繕工事新聞1803(99号)
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 ●事案の概要 神奈川県藤沢市所在のマンション(昭和42年竣工・RC造・5棟・175戸)の区分所有者である原告2人が、被告である管理組合に対し、管理規約の改正(共用部分等の管理、修繕積立金の取り崩し)、給排水管等設備改修工事の請負契約の締結、借り入れおよび修繕積立金の使用に関する総会決議の無効を求めた事案。 工事対象には共用、専有部分に属する給排水管・ガス管だけでなく、浴室、トイレ、給湯器、洗濯パン、洗面化粧台などが含まれていたことから、専有部分の先行工事をした者との不均衡、浴室やトイレなどの所有権は管理組合にない点などが争われた。 工事は原告の住戸がある棟の4戸を除く171戸で完了し、管理組合は工事代金を支払っている。 判決は一審の横浜地裁で管理組合の主張を支持。原告である区分所有者の請求を棄却した。東京高裁でも区分所有者の控訴を棄却。最高裁は上告を受理しなかった。●原告の主な主張・ 浴室、トイレ等の専有部分の設備工事を一体として行う必要201835..3事業内容●大規模修繕工事コンサルタント ●建物調査・診断●設計 ●工事監理 ●長期修繕計画作成●設備調査診断・設計・工事監理〒136-0076 東京都江東区南砂2-2-16 東陽町グリーンハイツ301号TEL:03-5683-2403 FAX:03-5683-2426http://www.eastsun.jp E-mail: eastsun@js6.so-net.ne.jp性はない。・ 区分所有者の意思に反して改修工事をすることは、区分所有者の区分所有権の侵害である。・ 専有部分の改修工事に修繕積立金を充てる決議は、すでに専有部分について先行工事を行っていた区分所有者との間に不均衡が生じる。・ 修繕積立金を用いて工事が実施されると、工事によって設置されたユニットバス、トイレ等の設備の所有権が管理組合に帰属することになることになり、区分所有という仕組みの基本に反するため、決議は無効である。●被告の主な主張・ 専有部分に属する給排水管、浴室、トイレ等の設備は一体的かつ効率的な管理のために必要なものであり、区分所有者の共同の利益に資するものである。・ 配管類の交換で、浴室の床をはつり、既存の浴室を再設置するには、①多額な費用のかかる防水工事が必要となる、②配管類のみ交換すると旧設備から漏水する危険がある、③撤去したバランス釜・浴槽を再接続する部品の調達ができないおそれがある。このため共用部分の工事とともにユニットバス化に更新する必要があった。・ トイレ設備は共用部分の給排水管と物理的に接続されていて、共用部分と物理的一体性を有する部分であり、配管類のみ更新しても旧設備から漏水する可能性がある。ゼネコン勤務時代の 現場・設計・積算 の経験を活かし一級建築士事務所 イーストサン株式会社 を設立・ 先行工事をした区分所有者に先行工事代金を補償すると、修繕積立金の負担で従前の更新設備による利便性の利益を与えることになり、かえって公平性を欠く結果となる。・ 既存設備を続けて使うことを希望した区分所有者に対しては、標準品の価格相当額をオプション工事代金から値引きすることによって実質的な補償をしている。●裁判所の判断・ 管理規約を改正し、専有部分を共用部分とともに一体として管理することは、建物等の維持管理に必要かつ有益であるから、規約の新設がただちに区分所有権を侵害するとは認められない。・ 本件工事に先立って浴室、トイレ等の設備を自費で更新した者と、本件工事によって修繕積立金で更新を行った者との間に不均衡が生じる可能性は否定できないが、原告以外にも先行工事を行った者が相当数あり、先行工事の設備を再利用する者には減額措置がとられている。先行工事を行った者が相当数いる中で、総会決議や工事に反対しているのは原告2名にすぎない。・ 浴室・トイレ設備等は共用部分と専有部分の各配管と接続している。給排水管等を更新するためには浴室内のバランス釜と浴槽を撤去し、防水工事が必要であったが、これをユニットバス化することで低予算の工事が可能になった。逆に、旧設備の再設置は漏水の危険性があることからも共用部分の管理と一体として行う必要が認められる。・ 浴室やトイレ等の所有権について、専有部分と共用部分は管理規約によって定まっていることから、工事代金を修繕積立金から拠出したからといって、ただちに管理組合に帰属するものではない。・ 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却する。【コメント】 確かに配管類については、その管理は管理組合が主導で共用部分の本管と専有部分の枝管一体の工事をしたほうが効率的と思われる。 ましてや個人任せでは配管を更新しない住戸は当然あり、漏水事故など近隣トラブルとなる可能性は高くなる。 しかし、浴槽や洗面化粧台等は個人の趣味にも左右するため、家財まで管理組合の主導で行ってよいものか等、今回の判決に疑問を投げかける人も少なくない。 判例を読めば、今回のケースでは管理組合の主張に分があるようだが、これを勘違いして強硬な態度で不要な工事を推し進める管理組合が出てこないことを願いたい。イーストサン株式会社一級建築士事務所浴室やトイレも修繕積立金で更新!? 専有部設備の一体改修を決議大規模修繕工事における     管理組合様のパートナー─────判例の広場─────無効確認等請求事件平成29年9月14日 最高裁上告不受理マンション管理組合総会決議

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